生きるための経済講座

 テレビでアパート経営のCMをしていました。

 品質のいいアパートを低価格で建てるというのがウリで、「高品質!低価格!」と熟年タレントが目を輝かせて言っています。

 その通りなら実に素晴らしい話のように思えます。
しかし、本当に高品質なものが低価格で手に入るのがいいことなのでしょうか。

 本当に高品質なものは、やはり高価でなくてはいけません。また、それが当然です。
なぜなら、2000万もするような高級車や100万のバッグ、50万のジャケット、300万の時計、1億円の豪邸、そういった物はそれに対してそれ相応のお金を払える人だけが持つことを許されるからです。

 高品質なものを低価格で提供しようと思うと、どこかにひずみが生じます。
会社の利益を減らす場合は、社員の給料が安くなったりします。
また、業者が叩かれる、つまり低予算で仕事をさせられたりします。下請けも叩かれます。
職人さんも叩かれるかもしれません。
そんなことをしていると、最初に仕事をする人が泣きを見るわけです。
つまり、それが進んで進んで、とうとう町工場がなくなり職人さんがいなくなって、さらに安くで労働力が提供される中国へと移っていった訳です。中国なら賃金が安く済み、そこそこの品質のものが出来るわけです。

 もちろん、暴利を貪られるのはイヤです。それ相応の対価を支払う覚悟はありますが、だれでもぼったくられるのは腹が立ちます
  しかし、それがぼったくられているのか、それ相応の値段なのかを知るのは難しいことです。
  モノを知っている人、いわゆる目利きと言われる人はそこへ到達するまでに、失敗して無駄な物に大金払ったりして非常に悔しい思いを何度もしたり、自分の判断で値打ちのある物を手に入れたりして、自腹を切って物事を覚えていきます。それが目利きと言われる人たちです。あるいは、非常に裕福で恵まれた人。非常にいい物に囲まれて育った人のどちらかしかありません。
  物の価値は分かる
ようになるには時間とお金と、強い精神性が必要なのです。

 目利きであるためには自分のポリシーがなくてはいけませんし、センスも必要です。
  それは万人にあるものではありません。しかし、学習する気持ちがあれば、目利きになることは難しくありません。この「学習」がクセモノです。
  大体、「学習」なんて、面倒くさいもの、できればしたくないと思う人がほとんどなのです。ですから、「学習」しなくて済むような既に評価の定まっている物、ルイ・ヴィトンやエルメスのバッグ、ブルガリの時計、なんとなく南仏風な外観の家と言った「自分で判断しなくて済む物、責任がない物」へと怠慢な嗜好が肥大していき、それがいい物かどうかというよりも、「まだ日本で発売されていないレアなもの」程度の狭義な競争になってしまいます。

 また、「それが自分に適当かどうか」という判断をなくしてしまい、本来なら先に書いたように「それ相応のお金を払える人だけが持つことを許される」ものまで所有したくなり、八畳一間のアパートに住みながらローンで買った土足禁止高級車のシートにビニールを被せたまま乗り、ローンで買ったロレックスを身に付け、カードで買ったカルティエのリングを贈る、という不自然な経済生活を営んでしまうのです。

 分不相応なものを持つということが、向上心の欠如に繋がります。

 高級な物が低価格で手に入る、ということが「それ相応のお金を払える人だけが持つことを許される」レベルへ到達しようという気持ちを失わせてしまいます。もちろん、そうなろうと思わない人もいるでしょうから、それはいいのです。しかし、そこへ到達せずして、「そんな気分」を即席的に味わうことに一体なんの意味があるのでしょうか。

 高級なものがある程度安く手に入るとしても、それは決してお金がない人が買えるためのものではないと考えるべきです。
  それを持つステージに自分がいるかどうか、自分自身を冷静に判断できる能力と勇気が必要です。例え、頑張れば買える範囲であっても、熟考して「買えるかも知れないけど今は時期ではない」という判断出来る人の方が、ローンを組んで無理に買うよりもずっと大人ではないでしょうか。

 清貧という言葉があります。金銭的に貧しいことは何も卑下するようなことではありません。ヴィトンのバッグを持っていても昨日のテレビや芸能界、人の噂話しかできないとか、高級車に乗っていてもスーパーの障害者用スペースや白線外に駐車するとか、全く品性を欠く行為のほうが遙かに貧しいことです。

 品行は正せても品性は正せない」とは渋澤瀧彦の言葉です。品性とは滲み出るもので、一朝一夕で身に付くものではありません。お金は後からいくらでも作ることができます。慌てて高級品を漁るよりも、もっと先にしなくてはいけないこと、今しか出来ないことをしていけば、年齢を経てから山積みのローンと空っぽの自分に気づいたりせずに済むはずです。


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