なんか、こんな連載をしていると、段々肩身の狭い気がしてくると言うことがあって、実際に店がヒマな時があったりすると、これを読んでいる人が(な〜にエラそうなこと言ってやんでえ)と、思って来てくれないんじゃないかと、弱気になったりしています。

 ま、気を取り直して。

 私は先週東京に行って参りました。で、行ってきたのが「神田 やぶそば」です。

 有名店なので、行ったことのある方も多いかも知れません。
 ここの名物は、(多分)なんと言っても女将さんの唄ですね。唄っつったって、実際唄っている訳じゃありません。注文を通す時に普通は「せいろ一枚入りましたー」とか「きつね二つねー」とか、言うわけですが、ここは違う。
 女将さんが 全ての注文に節を付けて言うわけです。
 「せいろいちまあ〜あ〜いい〜い〜…
 てな感じ。
 で、面白いのが、いくつもの注文のなかで、いくつかはスタッフのおばさま方も、終わりの
 「いい〜い〜…
 のところで、ハモッたりしている。

 制服は、質素で、スカートの下はなぜかみんな白い靴下を履いていて、足が見えない。これって、訳があるんでしょうねえ。

 私は、一番奥の席で、フロア全体が見渡せる位置に座りましたので、入ってくるお客さんから、スタッフの立ち回りなんかを一望しつつ、一時間近くも居座ってしまいました。
 もちろん、まあ、1時間くらい居ても許されるくらい使ったと思いますが、(そばだけで一時間も居たりしちゃ、もちろんNG!野暮の極みですよ!ちなみに、寿司屋で長居も野暮です)もし、並んだりしたら、帰ろうと思っていたにもかかわらず、結構回転が速い。一方で、サラリーマンなのに、ビールやら、酒を頼む率も高い。結構みんな飲んでます。やっぱり車じゃないからというのもあるかもしれません。
  私の隣の席には、キャリア組っぽいサラリーマンがアメリカのステーキやら京都の料理やらの話をしながらビールと酒を飲んでいました。

 私は、というと、海苔(海苔箱に入ってくる。中には小さな炭がいれてあり、湿気らないように工夫されている)とビール小瓶で始め、天種(芝エビのかき揚げ)、お銚子一本(冷や)、最後にせいろ一枚。お土産に最初にビールを頼んだ時に付いてきた練り味噌を二つ。以上で五千円でした。で、一時間、店を鑑賞させてもらって、唄まで聞いて、いろんなお客さん(白髪の紳士や、会社の重役っぽい人、業界関係っぽい人、などなど多種多様な人々前々回書いたようなモデル風の美人はいませんでしたが、大内順子さんみたいなカッコイイおばさまはいましたよ)を観察できました。いやー安い!!

 店も素晴らしいが、お客さんとスタッフもステキでした。非常に居心地が良かったです。この居心地がいい。というのは、なかなか難しいものです。

 料理はおいしいけど、スタッフの態度がイマイチだったりすると居心地が悪くなってしまいます。これは非常に残念なことです。また、そういう店も多いのが実情です。また、居心地が良くないとか、そういう問題ではなく、「退屈な店」というのもあります。料理はおいしいのに、お客さんもステレオタイプでスタッフの対応もマニュアル的という店。これも多い。フレンチやイタリアン、中華、などのちょっと高級店っぽいところに多いです。(こういう店で一番退屈な日って分かりますか?私が思うに、それはクリスマスです。)

 店は舞台、とは、最初の回で書きましたが、今回は、いい舞台を見せてもらいました。インターネットのグルメサイトでは、「神田やぶそばまずい」だの「味が落ちた」だの、「あんなものなら、立ち食いのほうがマシ」などと書かれていたりするようですが、まあ、そんなことを言って、悦に入っていたりするのは、なんとも貧しくて悲しくなりますね。あそこは、そばの味だけ、追求するような場所じゃないのになあ。男女関係でも全体を楽しまずに名器だけ追求するような人?って感じ?(なんちゅう例えや)もっと広い視野で、全体を楽しめばいいのに、もったいないなあ、と思います。


  ま、どこに価値を見出すかは、人によって違いますからね。でも、「噂通りかどうか、食べてみてやろうじゃないか。どりゃー!」という好戦的な態度ではなく、「どんなもんすか?」くらい肩の力を抜いて、楽しんじゃいかがでしょうか。だって、「やぶそば」みたいな店がなくなっちゃ困るでしょ。日本の財産ですよ。あれは。

 

 

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